昔の研究:マルチエージェント・シミュレーション

先日,東京で開催された学会(IWA世界大会)で,ミシガン工科大の南方先生が化学反応をマルチエージェント・シミュレーション (multi agent simulation, MAS) で解析する方法を提案されていました。
 
多数の物体(例えば,水の中の汚濁物質の分子)が関与する変化(反応)において,その変化をコンピューター上でシミュレーションする場合,通常は物体の総量(あるいは濃度)の変化を計算します。一方,MASでは物体を一つ一つ独立したものとして考えて計算します。 前者は対象とする領域が均一であることを前提としているのに対し,後者は不均一さを前提としています。

この発表を見て,昔の研究を思い出しました。
そこで,私が昔やった研究をご紹介したいと思います。


■ 植物プランクトンー動物プランクトンの動態

下のアニメーションは,二次元空間内で植物プランクトン(青い点)と動物プランクトン(赤い点)の成長と死滅とを計算したもので,一つ一つの点がプランクトンを表しています。

それぞれのプランクトンはランダムに動き回り,増殖(※)していきます。
動物プランクトンについては,移動に伴い体内に蓄えられたエネルギーの一部が消費され,エネルギーが枯渇した場合には死滅するとしています。また,移動先付近に植物プランクトンがいた場合には, 植物プランクトンを補食し,エネルギーを獲得します。エネルギーがある一定値以上蓄積されると,増殖(分裂)します。
  
 ※ここでは両プランクトンとも細胞分裂で増殖するとしています。
 
時間の経過に伴って両プランクトンの個体数(点の数)や位置が変化していく様子が面白いですね。
(アニメーションが動かないときは,画像をクリックしてみて下さい。)

このシミュレーションは,コンピューターの能力が高まった将来,生態系変化に関するシミュレーションはこんなものになるのではないかと予想し,そのコンセプトを提示するために作成したものです。
2003年に滋賀県で開催された世界水フォーラムにて発表しました。
 
 
■ 越生町でのクリプトスポリジウム症の拡散

1996年に埼玉県越生町で起きたクリプトスポリジウム集団感染を例に,水系感染症(水を伝って拡がる感染症)の拡散過程を再現するシミュレーションモデルを作成してみました。

当時,病原微生物(クリプトスポリジウム)が市外から持ち込まれ,市内のどこかの地点で環境中に排出されたはずですが,いつ,どこに排出され,どのように市内で拡がっていったのかは分かっていませんでした。

そこで,越生市内の水,人,病原性微生物の動きを再現するモデルを作り,微生物が排出された地点・タイミングを変えた様々なケースに対してMASの計算を行ってみました。その結果,ごく限られた地域・時点において微生物が排出された場合に,実際の状況と似た状況が再現されました。


上の図は,あるケースでの排出から30日,60日,90日後の拡散状況で,青が感染した人(未発症),緑が発症した人,赤が回復した人(免疫獲得)を表しています。

この成果は2006年にある学会誌に投稿したのですが,査読が通らずそのままボツになってしまいました。自分ではかなりいけてると思ってたのですが...


 過去にはこんな研究もやってました。

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