■ 研究紹介 (researches) ■
~研究室で取り組んでいる研究について紹介します。
1. 資源回収型の新しい廃水処理プロセスの開発
(Development of a new wastewater treatment process for resource recovery)
様々なところから排出される廃水を処理する技術について研究しています。単に処理するだけではなく,廃水中の成分を使い「価値ある物質」を作り出したり回収したりすることで,少しでも経済的価値を生み出し処理負担の軽減を図るとともに,持続可能な社会の実現に寄与できることを目指しています。
(1) 微細藻類を用いた下水処理プロセス
~ 同志社大学・鳥取大学との共同研究。
われわれが使った後の廃水(下水を含む)は,一般的には下水処理場等において「活性汚泥法」と呼ばれる方法で処理されています。この処理法では,下水に含まれる有機物を微生物(とくに細菌)の働きで分解・除去しています。100年前に開発され,世界中でひろく使用されている技術です。
ですが,この処理法は,基本的に廃水に含まれる成分を取り除き,大気中へ放散するか固形物として廃棄することを前提にしています。また,病院等から流入してくる抗生物質が原因となり,下水処理場内で抗生物質耐性菌が増殖することが指摘されています。
われわれは,廃水に含まれる成分を回収・資源化し,抗生物質耐性菌や,その他の化学物質による汚染の心配のない,そして可能なら経済的に自立した,21世紀にふさわしい廃水処理法を開発しようとしています。
具体的には,凝集沈殿,オゾンを使った酸化処理のあと,微細藻類(いわゆる植物プランクトン)を培養します。このとき,特別なプランクトンを培養し,付加価値の高い物質を生産させます。現在は,付加価値物質として「カロテノイド」の一種「アスタキサンチン」をターゲットに据えています。カロテノイドとは,β-カロテン,アスタキサンチン,ゼアキサンチンなどの天然の色素で,抗酸化作用があります。中でもアスタキサンチンは抗酸化性が強く,健康食品・サプリメント,養殖魚の餌の添加物として使用されています。
この研究では,微細藻類にヘマトコッカス(Haematococcus pluvialis)を使用しています。この藻類はストレスを感じると細胞内でアスタキサンチンを合成・蓄積することが知られています。しかし,様々な微生物が混在する下水中でヘマトコッカスを安定して培養することが難しいという課題があります。われわれは「オゾン」とAIによる「画像認識」を利用して,ヘマトコッカスを下水中で培養する方法を検討しています。
(成果発表)
- 永禮英明, 枡田隆広, 石川千遥, 2023. 画像認識による微細藻類Haematococcus lacustrisの細胞形態識別. 土木学会論文集 79 (25), 23-25047.
- 石川千遥, 枡田隆広, Nhut, H.T., 永禮英明. 資源回収型下水処理プロセスの開発に向けたHaematococcus lacustris優占培養法の検討. 第57回日本水環境学会年会. Mar. 15-17, 2023. 松山.
- 永禮英明, 枡田隆広, 石川千遥, Nhut, H.T., 赤尾聡史, 高部祐剛. リン回収普及に向けた微細藻類カロテノイド生産技術の開発状況. 第60回下水道研究発表会. Aug. 1-3, 2023. 札幌.
- 永禮英明, 石川千遥, 枡田隆広, Nhut, H.T. オゾンを用いた下水中微細藻類ヘマトコッカス優占培養法の検討. 第32回日本オゾン協会年次研究講演会. June 22-23, 2023. 東京.
- Nagare, H., Okamura, J., Komatsu, H. Heterotrophic cultivation of Chlorella spp. in lactose medium. 10th IWA International Symposium on Waste Management Problems in Agro-Industries. June 19-21, 2019. Rhodes, Greece.
- 永禮英明, 赤尾聡史, 高部祐剛. 下水からのリン回収を目的とした 微細藻類によるアスタキサンチン生産. 第53回日本水環境学会年会. March 7-9, 2019. 甲府市.
- Okamura, J., Nagare, H., Komatsu, H. Waste Milk Treatment with Microalgae. IWA World Water Congress & Exhibition 2018. Sept. 16-21, 2018. Tokyo, Japan.
- 永禮英明. アスタキサンチン生産をともなう新たな下水処理プロセスの開発. 第53回下水道研究発表会. July 26-28, 2016. 名古屋市.
- Sato, H., Nagare, H., Huynh, T.N., Komatsu, H. Development of a new wastewater treatment process for resource recovery of carotenoids, Water Sci. Technol., 72, 7, 1191-7, 2015.
- 永禮英明, Huynh, T.N.C., 佐藤博紀. 藻類培養のためのキトサンによる下水凝集処理. 第49回日本水環境学会年会. March 16-18, 2015. 金沢市.
- Nagare, H., Sato, H., Komatsu, T., Huynh, T.N.C. Astaxanthin production from wastewater by Haematococcus pluvialis. 1st IWA Resource Recovery Conference. 29 August-2 September, 2015. Ghent, Belgium.


(2) 農業排水の処理技術
(Treatment Process of agricultural wastewater)
我々にとって不可欠な食品の製造過程で排出される農業排水の処理技術を開発しています。
1) パーラー排水の処理
牛乳製造過程において,搾乳機洗浄排水と出荷不可能な牛乳(廃棄乳)が排出されます(「パーラー排水」と呼ばれている)。本研究では,化学的処理(凝集)と生物学的処理による排水処理技術を開発しています。
これまでの研究で,搾乳器洗浄排水は凝集処理による簡単な処理で排水基準値以下の水質にできることがわかりました。その一方,廃棄乳は搾乳器洗浄排水に比べ濃度が非常に高く,凝集処理だけでは処理が不十分です。そのため,個別の農家で廃棄乳を処理しようとすると大きな処理設備が必用となり,経済的負担が問題となります。
このような理由から,我々の研究室では,搾乳器洗浄排水は各農家で処理し,廃棄乳だけを集約処理する方法を提案しています。ただし,廃棄乳を集約処理する場合も収集と処理のコストが必用です。そこで,廃棄乳を資源として見なし,廃棄乳中の有機物から「カロテノイド」を作り出す方法を検討しています。
処理では微細藻類(いわゆる植物プランクトン)を使います。微細藻類は有機物を分解しながら,細胞中にカロテノイドを蓄積します。
2) 養液栽培廃水の処理
- Nagare, H., Nomura, Y., Nakanishi, K., Akao, S. and Fujiwara, T.: Characterization of Effluent Water Quality from Hydroponic Cultivation System, J. Water Environ. Technol. Vol. 19, No. 2, pp. 64-73, 2021.
2. リンの回収・再利用技術
(Phosphorus recovery for recycling)
リンは全ての動物・植物に必須の元素で,われわれは野菜や肉に含まれているリンを,1日に約1 g 摂取しています。 このリン,畑では肥料として供給されていますが,もとをたどればリンを含む鉱石(リン鉱石)として,世界のごく一部の国・地域で採掘されています。世界の人口はまだまだ増加し,もっと多くの食料が必要となります。そのために肥料として使用するリン鉱石の需要も増加します。しかし,鉱石の埋蔵量に限りがあるため,将来の供給不足や鉱石の質の低下が懸念されています。このことは,将来の食料生産が難しくなることも意味しています。
その一方,リンは湖沼等での富栄養化の原因となる物質でもあり,富栄養化した湖沼ではアオコなどのプランクトンの大量増殖が発生したり,異臭,景観悪化,魚類の窒息死などを引き起こすことがあります。
このように,リンは必ず必要な元素である一方,環境汚染の問題ともなる物質です。そのため,われわれは有効にリンを使用する必要があるのです。本研究室では,下水,畑地土壌,バイオマスからリンを回収し,再利用するための研究を行っています。
※一部の研究はJST-CREST研究(2009~2015年,研究代表者:高知大学・藤原拓教授)として実施しました。
図2-4 リン回収が可能な下水処理プロセス
(Fig. 2-4 Wastewater treatment process with phosphorus recovery.)
(成果発表)
- 永禮英明, 渡辺諒, 藤原拓, 赤尾聡史, 前田守弘: 大型水生植物からのリン回収, 土木学会論文集G(環境), (accepted), 2016.
- 永禮英明: リン酸カルシウム沈殿生成による養豚場放流水の水質改善と溶解平衡計算, 土木学会論文集G(環境), 71, 7, III_323-III_328, 2015.
- Nagare, H., Fujiwara, T., Inoue, T., Akao, S., Inoue, K., Maeda, M., Yamane, S., Takaoka, M., Oshita, K., Sun, X. (2012) Nutrient Recovery from Biomass Cultivated as Catch Crop for Removing Accumulated Fertilizer in Farm Soil, Water Science and Technology, 66(5), 1110-1116.
- 永禮英明,藤原 拓,赤尾聡史,前田守弘,山根信三 (2011) 回収・再資源化を目的としたバイオマスからの元素抽出,土木学会論文集G, 67(7), III_461- III_466.
- 永禮英明,井上 司,藤原 拓,赤尾聡史,前田守弘,山根信三 (2010) トウモロコシからのリン抽出方法の検討,環境工学研究論文集,47,459-464.
- 永禮英明,津野 洋,Saktaywin, W.,早山恒成 (2009) オゾンによる汚泥減容化とリン回収を導入した高度下水処理プロセスでのリン回収方法の検討,環境工学研究論文集,46, 469-475.
- Nagare, H., Tsuno, H., Saktaywin, W., Soyama, T. (2008) Sludge Ozonation and its Application to a New Advanced Wastewater Treatment Process with Sludge Disintegration, Ozone: Science & Engineering, 30(2), 136-144.
- Saktaywin, W., Tsuno, H., Nagare, H., Soyama, T. (2006) Operation of a new sewage treatment process with technologies of excess sludge reduction and phosphorus recovery, Water Science and Technology, 53(12), 217-227.
- Saktaywin, W., Tsuno, H., Nagare, H., Soyama, T., Weerapakkaroon, J. (2005) Advanced sewage treatment process with excess sludge reduction and phosphorus recovery, Water Research, 39, 902-910.
3. 湖沼の流域統合管理モデル構築と水質保全対策の検討,温暖化の影響予測
(Development of an integrated lake basin model of the lakes for water quality management)
(1) 琵琶湖の水質管理
~滋賀県琵琶湖環境科学研究センター,パシフィックコンサルタンツ(株),(株)環境情報コミュニケーションズとの共同研究。流域での人間活動(人為活動)が湖沼の水質へ及ぼす影響を予測するための数理モデルを構築しています。各種の水質保全対策を実施した場合に,湖沼の水質がどのように変化するのかを予測することが可能です。実際に滋賀県の行政施策検討に使用されています。
また,このモデルを使い,地球温暖化が水質に及ぼす影響についても評価を行っています。
- (省略します)
- 永禮英明, 山本敬介, 2024. 気候変動が児島湖の水質と水質保全対策に与える影響. 水環境学会誌, (accepted).
- 山本敬介, 永禮英明. 気候変動が児島湖内水質に与える長期影響の予測評価. 第57回日本水環境学会年会. Mar. 15-17, 2023. 松山.
4. シミュレーション技術 (Simulation)
このような考えから,化学反応の進行過程に関する詳細な解析を試みています。現在は,イオン液体をオゾンで分解する際の反応に注目し,Gaussian,GAMESSによる量子化学計算,GROMACSによる分子動力学計算を実施しています。
過去の研究 (Researches in the past)
5. 釧路湿原の環境保全に関する調査研究
(Field survey on groundwater characteristics in Kushiro wetland in relation to vegetation)
釧路湿原ではここ数十年で大きな樹木(ハンノキ)の被覆面積が増加し,景観上・生態系保全上の問題となっていますが,ハンノキ林拡大の原因は明らかになっ
ていません。そこで,我々は湿原地下水の水質に注目し,地下水水質が植生変化に及ぼす影響について研究を行っています。

6. アジア・太平洋諸国での廃棄物最終処分場浸出水による環境汚染調査
(Water quality survey on heavy metal pollution from waste disposal facilities in pacific countries)
アジア・太平洋の途上国では,廃棄物が適正に処分されていない事例が見られます。このような状況では廃棄物に含まれる有害物質により環境汚染が引き起こさ
れる可能性がありますが,どのような実態にあるのかさえ明らかになっていません。本研究では途上国最終処分場周辺の河川水等を採取し,汚染の実態を明らか
にすることを目的としています。また,最終処分場浸出水に有価物(肥料成分等)が多量に含まれる場合,それらの有価物を回収・再資源化するための技術につ
いても検討しています。

